「モルフェウスの領域」海堂尊
チームバチスタシリーズのスピンオフのような位置づけの医療ミステリーである。
舞台はコールドスリープが実用化された近未来である。「モルフェウス」は,9歳にして網膜細胞腫という眼の小児がんを患い,将来的な治療法の確立に期待し,5年間の眠りについた。主人公である涼子は,彼の5年間の「凍眠」期間中の生命維持業務を担当している。モルフェウスと2人だけの空間で過ごすうちに彼への愛着を深めていった涼子だったが,彼が目覚める際に重大な問題が発生することに気が付いてしまう。
現実にコールドスリープが実用化される際にも問題となるであろう,人間の尊厳の守り方に焦点を当てた小説である。
ライトな作品だと思い,読み始めたが,思いのほかテーマが深く,考えさせられる内容であったため,楽しく読むことができた。
個人的には幼い涼子に医療知識を享受してくれた医務官に心ひかれた。名前は忘れたがチームバチスタに出てくるあの先生であろう。
2010年に書かれたこの小説は刊行当初は完全なフィクションとして書かれたのであろうが,このような問題が現実になってくるのも時間の問題であろう。
海堂作品は複数作品読むとそれぞれの点と点がつながる楽しみがある。久しぶりに他の作品も読みたくなった。