「運命の人」山崎豊子
1972年に起きた外務省機密漏洩事件(通称「西山事件」)を題材とした山崎豊子さんのフィクションである。
山崎作品でいうと「沈まぬ太陽」と同じタイプの正義感の持ち主である主人公が巨大な組織に闘いを挑むという物語である。ジャーナリスト出身である山崎の作品はどれも綿密な取材をもとに執筆されているため,どの作品も現実性があって面白い。本書に至っては80歳を超えて連載を始めているのにこの完成度は圧巻である。
物語としては沖縄基地返還の際の日米の密約文書を外務省の女性事務官から入手した新聞記者である弓成は国から裁判を起こされる。一連の騒動ののちに沖縄にたどり着いた弓成は,沖縄の人たちが味わった苦しみの歴史を目の当たりにし,,,という話。
日本で唯一地上戦が行われた沖縄という土地の人々の苦しみの歴史にも触れることができ,米軍基地問題なども,より身近に感じられるという点では,小説でありながら社会勉強にもなる作品である。
他の山崎作品同様,ドロドロとした人間関係も魅力の一つであり,4巻という大作ではあるが,飽きることなく読み進めることができた。
読み応えのある文学作品が読みたい,というときにおすすめの作品である。