T.T.の読書日記

小説,エッセイ,ノンフィクションなどの感想を書きます。

「マネー・ボール」マイケル・ルイス

皆さんは野球を見るとき,何に注目しているだろうか?

 

純粋に試合を楽しむ人もいれば,打率や防御率などの数値を見ながら楽しむ人もいるだろう。中には,OPSやWHIPなどのいわゆるセイバーメトリクスを見ながら楽しむ人もいるかもしれない。

この本はメジャーリーグセイバーメトリクスの考え方と,効率的な球団経営手法を持ち込んだビリー・ビーンという人間の物語である。

 

物語はビリーがメジャーの球団,ニューヨーク・メッツに入団するところから始まる。ビリーは子供のころから運動をしても,勉強をしても,とてもよくできた。メジャーリーグの入団テストでもその身体能力を見せつけ,ドラフト一巡目でメッツに入団する。

しかし,その期待とは裏腹にビリーはメジャーリーガーとして大成することはできなかった。3度の移籍を経てついに自分自身の才能に見切りをつけたビリーは,自らスカウトになることを志願した。

スカウトとして働いていたビリーは,当時のゼネラルマネージャー(GM),アルダーソンと出会い,衝撃を受ける。弁護士出身のアルダーソンは野球の知識はまるでない代わりに,知識欲は旺盛であった。過去の試合データを調べ,試合中の戦術から選手の評価方法まで,科学的にやっていく方が有利だという根拠を得たアルダーソンは,出塁率を軸にした新たな"球団文化"を作り上げた。

科学的な分析手法が確立された現在では当たり前のことかもしれないが,当時としては目新しい試みであった。それまで主観的に野球を見ていたビリーは,客観的な数値に基づいて評価する,この新たな視点にとても感銘を受ける。

ここから,野球のデータ分析本を読み漁ったビリーは,1997年,アルダーソンの後釜としてオークランド・アスレチックスGMに就任する。本書では,ここからビリー・ビーンの球団経営者としてのサクセスストーリーが描かれていく。

 

映画化により脚光を浴びた本書だが,セイバーメトリクスという過去に使われてこなかった手法を持ち込んだ点もさることながら,安く買って高く売るというビジネスの基本を野球の世界に持ち込んだ点に面白さを感じた。

何をするにしても大金をはたけばそれなりの成果は得られる。当時のメジャーリーグもそうであり,打率や防御率のようなわかりやすい指標で高い数値を残した選手をニューヨーク・ヤンキースのような金持ち球団が高値で買い,いつも上位に居座っていた。

ここで打率や防御率の指標に疑問を持ったことが,ビリー・ビーンが名GMと呼ばれる理由なのであろう。ビリーはセイバーメトリクスを駆使し,市場で評価されていない隠れた名プレイヤーを安値で買いたたき,アスレチックスはヤンキースなどの金持ち球団と対等な戦いを見せる。年俸総額3倍のチームと対等に渡り合ったのである。

"あたりまえ"に疑問を持つこと。これがビリーが成功した要因であろう。新しい視点を持って,最小のリソースから最大の結果を出すこと。これはビジネスの世界でも常に求められるテーマである。野球好きなビジネスマンにはぜひこの本を読んでほしいと感じた。